医療4.0がもたらす日本の未来とは?
少子高齢化問題や社会保障給付費の増加、平均寿命と健康寿命の乖離など、日本が抱える医療の問題は多く存在しています。
一方で現代では第四次産業革命が進み、インターネットやAI、ビッグデータやロボティクスなどの化学技術が発展してきました。これらは産業構造だけでなく、人の生活様式までも変革すると言われています。
医療4.0では、第四次産業革命の技術を応用することで、日本が抱える医療問題の解決が期待されています。
本記事では加藤浩晃著「医療4.0」をもとに、日本が抱える医療問題に対して、医療4.0がどうアプローチしていくのかを解説します。医療4.0を活用することで、日本の医療問題がどう解決されるか知りたい方はぜひ参考にしてみてください
医療4.0とは?これまでの変遷について
医療4.0とは、第四次産業革命の技術を医療現場で応用する時代の日本の医療を指しています。日本は、医療4.0に至るまでにさまざまな変革を遂げてきました。
1960年代に国民皆保険制度が実現し、現在の医療提供体制の礎ができた医療1.0。
高齢化が懸念され介護施策が進んだ医療2.0、電子カルテをはじめとした医療のICT化が進んだ医療3.0と進んできました。
そして現在、日本の医療は第四次産業革命の変化に合わせて、新たなフェーズに移行しています。第四次産業革命の技術を活用することで、今まで解決できなかった問題に対してアプローチできる可能性が高まっているのです。
人口動態に伴う日本の医療課題
2030年の医療を考える際に、日本が抱える医療問題について解説します。
現在、日本の医療で問題視されているのは次の3つです。
急激な人口減少に伴う少子高齢化の加速
終戦時から人口が増加してきた日本は、2008年をピークに減少フェーズに移行します。
一方で、高齢化は進み「団塊の世代」が65歳となった2015年には3,392万人へ増加。2030年には3,685万人へ増加の一途をたどると予測されているのです。
この動きは、日本全国で時期を同じくして進んでいるわけではありません。
都道府県別の65歳以上における高齢者人口の増加数を見ると、東京都や大阪、兵庫や福岡といった都市が全体の増加率の60%を占めています。
一方で地方では、65歳以上の高齢者人口は大きく変わらないとされています。
地域によって高齢化の進むスピードが異なるため、高齢化に伴う医療受給量にばらつきが生じるのです。
社会保障給付費の増加
高齢化が進む中、医療費も増加の一途をたどっています。
現時点で、社会保障給付費が国民所得に占める割合は約3割に達しています。
日本の国民所得は2000年以降大きく変化していない中、国民医療費が増加しているため、国民の負担は増える一方です。
国民医療費は2015年度に42.3兆円であり、約1億2000万人の国民は一人あたり年間約35万円の医療費を負担している計算になります。
平均寿命と健康寿命の差が拡大
戦後の疾病構造として多かった肺炎や結核などの感染症は減少し、現在では生活習慣病が死亡全体の約6割を占めています。これに伴い、高齢者の平均寿命が長くなり、生活様式に変化がみられるようになりました。
寝たきりの状態が長期化するようになったのです。これは、平均寿命は延びたが「介護を必要とせず自立した生活を過ごせる期間」を指す健康寿命が短くなったことを指します。
平均寿命と健康寿命の差が拡大することで、医療や介護の利用時間が増え、医療費や介護費が増加します。
第四次産業革命の技術を医療に応用する
第四次産業革命によって2つの変化が起こると考えられています。
1つ目はオーダーメイド化です。今までは、消費者自身が大量生産された品物の中から自分好みの品物を選ぶ受け身の姿勢をとっていました。
今後は消費者自身が自分好みの品物を選び、簡便に注文できるようになります。
これにより、消費者それぞれの好みに合ったオーダーメイドビジネスがより広い領域で可能になる時代がきます。
2つ目は「新たな付加価値が提供される」ことです。
従来は商品を売った時点でビジネスが終わりになる形式がとられていました。今後はIoTを活用してアフターサービスにつなげる方向に変わっています。
これらの2つの変化は、第四次産業革命に関する技術によって、ますます進むと言われています。日本では、第四次産業革命に関する技術を応用し、健康長寿社会の形成や経済成長につなげることが求められています。第四次産業革命に関する技術として代表されるのは次の通りです。
- IoT
- 人工知能
- ビッグデータ
- ロボティクス
- VR
- AR
- MR
- 5G
- ブロックチェーン
- BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)
今後の医療4.0の展望について
今後の医療4.0は次の3つの視点から、今後もさまざまな技術革新を遂げ、医療問題の解決へアプローチしていきます。
患者と医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」
「多角化」の最たる例がオンライン診療です。
オンライン診療とは、ビデオ通信などを通じてオンライン上で診察が受けられる診療のことです。ウェアラブルデバイスで計測した脈拍や血圧、歩数などのデータをスマートフォンやパソコンを介して医師が受け取れます。
これにより、通院が困難な寝たきりの人や、自覚症状が乏しいことで治療を断念しがちな方に医療が提供可能になります。
家の近くに医療機関がない方や、疾患の専門医が近くにいない場合でも、オンライン診療で専門医の診察が受診可能になるのです。
一人ひとりに応じたオーダーメイド化が進む「個別化」
「個別化」の代表例となる技術がゲノム医療です。ゲノム医療とは、生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)を利用した医療のことです。ゲノム医療を活用することで、たとえば100種類以上のがん関連遺伝子を1度に調べられます。
これにより、将来起こりうる疾患を把握したり、薬の効きやすさや副作用を予測するなどの「予測医療」が期待できるでしょう。
ゲノム医療を活用した予測医療によって、一人ひとりに適した医療を提供できるようになります。
医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」
「主体化」によって、患者が自分で判断し治療に向かうセルフケアが主流になっていきます。現在行われているタブレットやチャット形式での問診も、将来的にはAIスピーカーで代替されると考えられています。
患者が受診前に自宅のAIスピーカーに症状を話しておくことで、受診時に医療機関のカルテに自動反映される時代が来るかもしれません。
医療機関にかかる高齢者の多くは、スマホやタブレットに馴染みのない方が多いです。
そのため、AIスピーカーによる問診は有用とされています。患者自身がAIスピーカーを主体的に活用することで、患者個人に最適化した医療提供が可能になるでしょう。
まとめ
少子高齢化問題や社会保障給付費の増加、平均寿命と健康寿命の乖離など、日本が抱える医療の問題は多く存在しています。これに対し医療4.0では、第四次産業革命の技術を応用することで、日本が抱えるさまざまな医療問題の解決が期待されています。
今後の医療4.0は次の3つの視点から、今後もさまざまな技術革新を遂げ、医療問題の解決へアプローチしていきます。
- 患者と医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」
- 一人ひとりに応じたオーダーメイド化が進む「個別化」
- 医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」
医療4.0は、今後も新しい第四次産業革命のテクノロジーを導入し「患者への最適な医療提供」に向けて発展していくでしょう。