予防歯科が医院経営と社会を変える?「歯科革命3.0」

予防歯科が医院経営と社会を変える?「歯科革命3.0」

この記事をシェアする

2019年時点での歯科医院の数は68,404軒にのぼり、人口100,000人あたりでは54.2軒に相当します。これは1993年の44.38軒から10軒近く増えていることを意味します。それにも関わらず日本の人口は減少の一途をたどり、虫歯の数も年々減り続けている。このような状況では倒産する歯科医院が続出しても何ら不思議なことではありません。そこで注目したいのが上村英之著「歯科革命3.0」です。供給が需要を上回る現在の状況をいかに打開していくか。そのヒントが本書に書かれています。

歯科は「治療だけ」では生き残れない?

「腕が良ければ患者が来る」時代は終わった

「虫歯の洪水」といわれた1960~1970年代は、国民のオーラルケアへの意識が極めて低く、子どもの90%以上が虫歯になっているような状態でした。1984年度でも12歳の永久歯の虫歯の本数は平均4.75本あり、「すぐに痛みを取ってくれる」ことが歯科医師の腕の良さの基準になっていました。歯科医師の絶対数が不足していたこともあり、患者側が歯科医院を選ぶというシチュエーションは皆無に等しかったのです。
時代は変わり、歯科医師や歯科医院の数が過剰になると、主導権は患者側へと移りました。2018年度には12歳の永久歯の虫歯の数は平均0.74本まで減少し、「すぐに痛みを取ってくれる」ことが優れた歯科医師の指標とはなり得なくなったのです。口腔リテラシーが高い患者は、スタッフの接遇や医院の衛生管理、歯科医師の診療に対する姿勢や知識、実績などに着目するようになります。つまり、「腕が良ければ患者が来る」時代は終わりを迎えたのです。

「治療」の第一世代、「治療プラスアルファ」の第二世代、「予防」の第三世代

虫歯ができたらとにかく削って埋めるのが「治療」主体の第一世代ですが、虫歯が減り、人口が減っていく中でその方法では歯科医院経営が立ち行かなくなりました。そこで広く普及したのが審美やインプラントといった自費診療です。失った歯の審美性や機能性の回復を追求し、付加価値を提供することに重きを置いたのが「治療プラスアルファ」の第二世代です。この傾向は現在でも続いているものの、限界を感じている歯科医院も少なくないことでしょう。なぜなら、「治療プラスアルファ」の診療は、審美に関心の高い都心部の富裕層をターゲットとすることで成り立つモデルであり、汎用性が高いとは言い難いからです。そんな中で上村英之氏が提案するのが「予防」を主軸とした第三世代への移行です。

15年で患者数を20倍に増やすことができた理由

上村英之氏は開業当初、ユニット3台、スタッフ3人で1日20人弱の患者さんを診療していました。それが予防と訪問診療を採り入れてから毎年100枚ずつレセプトが増えていき、月のレセプトは4,000枚以上に増加。1日300人が来院する大規模な歯科医院へと成長することができたのです。歯科における予防には、それだけのポテンシャルがあるといえます。

予防歯科が患者・働き手・経営・社会を変える

予防歯科には、患者の健康状態だけではなく、働き手や歯科医院の経営、ひいては社会まで変える力があります。その理由についてひとつずつ解説していきます。

なぜ予防が重要なのか?(患者)

そもそもなぜ予防が重要なのか。それが明確になっていなければ、患者さんに定期検診を勧めることもできません。その際、例示しやすいのが「歯周病菌による全身への影響」です。歯周病菌は、口腔から腸内へと移動して細菌叢に悪影響を及ぼすことが分かっています。歯周病菌によって腸内フローラ”が乱されると、腸のバリア機能が低下して感染性にかかりやすくなるのです。
歯周病菌が血流に乗ると、動脈硬化・狭心症・脳梗塞・心筋梗塞・糖尿病などのリスクを上昇させることも判明しています。さらに歯周病は、高齢者の死因の上位にくる「誤嚥性肺炎」との関連も深くなっているのです。歯周病を予防することで、前述した全身疾患のリスクを下げることができれば、患者さんの人生そのものを変えることにもつながります。

スタッフがやりがいを持って働けるようになる(働き手)

予防の主役は、歯科医師ではなく、歯科衛生士です。自らが主体的に行った口腔ケアやブラッシング指導、生活習慣指導によって患者さんの健康が維持・増進されることは、仕事のやりがいへとつながります。

「栓をしたバスタブ」により経営が安定する(経営)

治療主体のビジネスモデルは、いわば栓の抜けたバスタブです。治療が終わったら去っていき、その度にバスタブから水が抜けていきます。3ヵ月に1回のペースで通い続けてもらえる予防歯科は、患者が去っていくことがなく、栓をしたバスタブの状態を維持できます。それが定期収入となり、経営も安定していくのです。

社会保障費の削減につながる(社会)

超高齢社会である日本では、社会保障費の膨張が深刻な問題となっています。とくに社会保障費の半分近くを占める医療や介護の費用を減らすことが喫緊の課題といえるでしょう。国は健康寿命の延伸にもつながる口腔ケアや虫歯・歯周病の重症化予防に大きな予算を割くようになりました。これは予防歯科を推進することがさまざまな全身疾患のリスクを下げ、結果的に社会保障費の削減へとつながると考えている証拠です。実際、予防歯科にはそのような効果が見込めます。

予防歯科導入のキーとなるの「患者教育」と「スタッフ育成」

ここからは、予防歯科を日常の診療に導入するためのポイントを解説します。

予防歯科へシフトするための患者教育のポイント

「治療」から「予防」へシフトする上で最も重要となるのは患者教育です。とくに予防への動機づけに力を入れることが大切です。歯周病を放置すると歯が抜けるだけではなく、肺炎や糖尿病、心筋梗塞になりやすくなることをわかりやすくていねいに説明していきます。口頭では伝えきれないことは、わかりやすいパンフレットを作成・配布してフォローアップすると良いでしょう。

患者教育ができるスタッフ育成の重要性

予防に関する知識と技術、コミュニケーション力を兼ね備えたスタッフの育成も、患者教育と同じくらい重要です。歯科医師がこまめに技術指導を行うとともに、その技量を評価する制度を設けると、スタッフのモチベーションアップにつながります。

予防歯科で患者を集めるために必要な4つのこと

従来の治療主体のビジネスモデルでは、歯科医院の立地や歯科医師の評判が重要な要素となっていました。なぜなら患者は「一刻も早く痛みを取りたい」という短期的な目的で歯科を受診するからです。一方、予防歯科は3ヵ月に1回のペースで通ってもらう必要があるため、従来とは違った仕掛けが必要となります。
・ユニークな内装と仕掛け
・エンターテインメント性の演出
・医院の大規模化
・予防ならここというブランディング
かみむら歯科矯正歯科クリニックでは、上記の4つの取り組みを行うことで、予防歯科による集客を成功させました。詳細については、本書をお読みください。

予防歯科で社会はどう変わった?

最後に、予防歯科を導入することで、日本社会がどう変わったかを2つの事例を通してお伝えします。

【事例1】年間1億3700万円の医療費削減に成功した介護施設

福岡県の社会福祉法人「さわら福祉会」では、2017年9月から1年間、歯科医師の指導に基づき、利用者に対して1回10分程度の口腔ケアを週に2回行いました。その結果、1年前までは肺炎による入院回数が年間25回、545日だったものが、口腔ケアを実施後は入院回数10回、日数は144日まで減少しました。さわら福祉会グループ4施設合計では、1年間で2750日の入院が減少し、医療費が1億3700万円削減された計算になります。

【事例2】65歳の医療費が年間平均15万円削減

「トヨタ自動車関連部品健康保険組合」の中で年に2回以上、口腔ケアを受けている人602人を対象に追跡した調査では、48歳までは総医療費が平均的な医療費を上回っていました。これは定期検診などで年に2万円程度の医療費がかかるためです。しかし49歳を過ぎたあたりから逆転し、65歳では年間の医療費が平均より15万円ほど下回ることがわかったのです。50歳を折り返し地点として、そこからずっと総医療費が平均を下回っていくのであれば、予防歯科が社会全体の医療費削減に大きく貢献することは間違いありません。

まとめ

このように、予防歯科には歯科医院の経営を安定させるだけでなく、スタッフの人生や社会まで変えるほどの力があります。本著には、予防歯科によって海外まで商圏を広げる方法にも言及されています。関心のある方は是非ご覧になってみてください。

この記事をシェアする

よく一緒に読まれる記事

医師がお勧めする健康習慣とは?

2025年問題が医療・介護に与える影響と対策について

【2023年最新版】医療広告ガイドラインについて解説します

【2024年4月スタート】医師の働き方改革とは?

電子処方箋で日本の医療はどうなる?メリットや今後の課題について解説…

オンライン診察で新しい診療の選択肢と向き合う

地域医療とCRMで診察の未来が変わる

ビジョナリーカンパニーにみる歴史に名を残す企業とは?

医療チャットボットで変わる診療の世界

健康診断の数値の見方は?数値改善アドバイスについて徹底解説!

医療4.0がもたらす日本の未来とは?

面倒だけど経営に役立つ「か強診」のメリットとデメリットを深堀りする