SPTは患者の歯を守るだけでなく医院の安定収益にも
歯周治療は、歯科医師と歯科衛生士の二人三脚によるすごろくゲームに例えられることがあります。一度お休みしたり、急に改善がみられてステップアップできたり、同じ場所にとどまったり……。もどかしさも感じますが、多くの歯科医の中で、今、医院の収益性の観点からSPTの重要性が指摘されています。
う蝕なし・歯科医嫌いに有効なSPT
歯周病は、COVID-19が全世界的に流行する遥か昔から存在する厄介な細菌の感染症です。「虫歯は一切ありません」と自慢する大人の中には、う蝕がまったくないのに、歯周病が無自覚に進行している人もいます。
また、歯科医院への苦手意識から、歯槽膿漏に対応した市販の歯磨剤を使っていたけれど、どうしても出血が止まらない、動揺があるという場面になって初めて、歯科医院に駆け込む人もいます。そういった人たちに対してSPTは有効な治療なので、多くの皆さんがすでに取り組んでいらっしゃることと思います。
陥りやすいSPTの落とし穴
SPTにおいては、感染症にナーバスになっている今こそ、歯周病は感染症治療であることを伝えるのが有用な情報だと言われています。将来的に治療をしなければどうなるのかといった説明は、来院の動機づけになるからです。「清涼飲料水で歯が溶ける」という言説にはおびえるのに、骨吸収に対しては無関心な患者もいるので、SPTはコミュニケーションがとても大切な治療といえそうです。
SPTの落とし穴は、重度の患者と軽度の患者に同じゴールを設定すると、来院が途絶えてしまう可能性をはらむことです。いま、コロナウイルスへの恐怖感から、歯科診療の受診控えが発生しています。
計画書に一筆添えるだけで…
そうしたなか、SPTやメンテナンスで交付する「歯科疾患管理計画書」の用紙が注目されています。
歯科医や歯科衛生士の中には、口腔習癖や口腔状態の記載だけでなく、「薄型ヘッドの歯ブラシがおすすめです」や「奥歯にものが詰まりやすいときは歯間ブラシのMサイズが有効です」といった一言を添えている人もいるといいます。そうすることで、来院しない間の患者のデンタルIQを高めることにもつながりますし、歯科医院専売品が高くて経済的に買えない患者のサポートにもなるという考えです。
もちろん、収益の観点からは歯科医院が専売している歯ブラシを買ってもらった方がいいのですが、経済的な問題は来院頻度を下げることにつながりかねないので、「ゆるく長く」つながる方法も模索したほうがよさそうです。
決め手はやっぱり可視化
SPTのゴール設定とその後の定期メンテナンスという一連の流れを可視化するために、「きれいになった歯と歯ぐき」を患者に見せることの重要性を多くの歯科医師が指摘しています。
口腔内写真を並べて見せたり、ポケットの深さに改善が見られた場所をミラーで見せてほめたりするのが代表例です。ときにはエアフローを使い、着色汚れを落としてシェードで前後の色の変化を見せるなどすると、患者は喜ぶといいます。とりわけ審美領域にも関心がある患者は、歯肉の改善より「歯が白くなる」を重視する傾向が強いので、通院するモチベーションを維持することにもつながりそうです。
エアフローも、従来は高血圧や妊婦には使えませんでしたが、現在はナトリウムを使っていない薬剤が販売され、患者の全身状態によって使い分けられるので、便利になりました。
重要なリコールはがき
SPTは歯科医師、歯科衛生士がその患者の興味関心にいかに気がつき、すごろくの「あがり」の状態に持っていくことができるかという手腕が問われると言えそうです。「歯医者に行ってよかった」と思ってもらえたら、リコールはがきで次の来院につながる可能性が出てきます。
収益の観点からも、SPTは重要な治療になってきました。口腔だけを診るのではなく、患者さんの性格や暮らしの状況を診ることが、より一層重要になってきたのではないでしょうか。